誰かと待ち合わせをするとき、日本語では「10時にそこに行きます」のように表現しますよね。これを「行く」=「go」だと思って、英語で I’ll go there. と言ってしまうと、実は違和感のある表現になってしまうのです。正しくは、I’ll be there. なのですが、なぜそうなるのか理由を考察しました。
待ち合わせの約束をするときの「行く」と「go」について
A | 明日は10時に駅前の喫茶店でどうですか? |
B | 了解です。10時にそこに行きます。 |
このような会話を英語でするとき、「行きます」につられて「go」を使いたくなりますよね。正解は「be」なのですが、なぜそうなるのでしょうか。「go」と「be」のイメージを確認していきましょう。
I’ll go there の場合
例文:I’ll go there at 10 o’clock.
この場合は「10時に家を出て、そこに向かいます(=10時に移動を始める)」と解釈されます。
なぜ、このような解釈になるかというと…
① そもそも go は「場の中心から離れる動き」を表します。
② 待ち合わせ場所(there)は go によって向かう先なので、場の中心にはなりえません。
(go を使う以上、その出発点が場の中心になります)
③ 他に場の中心として考えられるものは「自宅」くらいしかありません。
以上のことから、場の中心を「自宅」として「10時に家を出ます」というニュアンスになるわけですね。
I’ll be there の場合
例文:I’ll be there at 10 o’clock.
be は「存在」を表すので、この場合は「10時にそこにいます」という意味になります。
英語で I’ll be there が使われる理由
「10時にそこ」という待ち合わせの趣旨からすると、言いたいことは「そこに向けて移動し始めること」ではなく「そこにいること」なので、be が適切ということになります。
しかし、そう考えると日本語の「行きます」は不自然ですよね。同じ理屈で考えると、日本語でも「10時にそこにいます」の方が適切なはずですが、実際は「行きます」の方がしっくりくると思います。日本語の「行く」と「いる」についても確認していってみましょう。
「そこに行きます」の場合
例文:10時にそこに行きます。
「行く」は「内(ウチ)から外(ソト)への動き」を表しますが、それに加えて「到達」を表す場合もあります。今回の場合は、到達のニュアンスが含まれていますね。この「到達」のニュアンスが含まれていることが、「go」との大きな違いになります。
なお、日本語にはウチとソトという概念があり、基本的には自分の普段いる場所(=自宅など)をウチに設定しています。そして、待ち合わせ場所がソト(=ウチではない場所)なのであれば、ウチからソトへの動きになるので「行く」という表現が使われるわけです。
「そこにいます」の場合
例文:10時にそこにいます。
「いる」は「存在」を表すので、「10時にそこにいる」ことを意味します。
日本語で「行く」が使われやすい理由
「行きます」
A | 明日は10時に駅前の喫茶店でどうですか? |
B | 了解です。10時にそこに行きます。 |
「います」
A | 明日は10時に駅前の喫茶店でどうですか? |
B | 了解です。10時にそこにいます。 |
さきほどの説明だけを聞くと、「そこにいます」でも良いような気がしますよね。でも、実際の会話で考えてみると「そこに行きます」の方がしっくりくると思います。
なぜそうなるのかというと、「そこにいます」だと「元々、その場にいる」ようなニュアンスになってしまうからです。「他のところから移動して、待ち合わせ場所にいる」ということを表したいのであれば、「行きます」の方がより適切に状況を表しています。
つまり、たいていの待ち合わせは「ソトの場所」であることが多いため、より適切に状況を説明できる「行く」の方が使われやすいというわけなのです。
なお、移動を伴わない「ウチの場所」での待ち合わせの場合は、「いる(居る)」で問題ありません。
A | 明日は10時に御社でどうですか? |
B | 了解です。10時には居るようにします。 |
この場合は「10時に弊社にいます」だと違和感があるので「10時には居るようにします」が自然な表現になります。
イベントに参加するときの「行く」と「go」について
A | 明日、新入社員の歓迎会を行う予定ですが、どうですか? |
B | 私も行きます! |
飲み会やなにかのイベントに誘われたとき、「参加します」という意味で「行きます」と言うことがあると思います。この場合、英語でどう言うべきかというと、これもまた I’ll go there. ではダメで、I’ll be there. が適切な表現になります。
英語で I’ll be there. が自然に出てくる理由
go は「場の中心から離れる動き」を表すので、I’ll go there. だと「イベントの場所に向けて移動を始める」ニュアンスになります。それに対して、be は「存在」を表すので、I’ll be there. で「イベントの場所にいます」→「イベントに参加します」となります。
そもそも、英語では相手がイベントに誘ってきた時点で、この話題における場の中心は「イベントの場所(またはイベントの内容)」に設定されるのが一般的です。その「イベントの場所」に意識を置いた上で、どういう表現を使って返事をするかを考えるので、そこ(=イベントの場所)に存在することを表す be はごく自然に出てくるわけなのですね。
日本語では「行きます」でなければいけない理由
「行く」は「ウチからソトへの動き」+「到着」でしたね。このようなイベントへのお誘い場面では、誘われた B さんにとってのウチ=未参加側、ソト=参加側になります。つまり、「行く」は単純な場所の移動ではなく、未参加側から参加側に移動することを意味しているわけです。
ウチとソトという概念のおかげで、「行く」という移動を表す表現が「参加」を表すことができるわけですね。
なお、このような場合に「いる」を使ってしまうと、「元々、その場にいる(=元々、参加側にいる)」ようなニュアンスになってしまいます。
A | 明日、新入社員の歓迎会を行う予定ですが、どうですか? |
B | 私もいます! |
つまり、「いる」という言葉は「変わらずに」というニュアンスを含むことがあるわけです。当然、この会話であれば、本来 B は未参加側であるにもかかわらず参加側にいるかのような発言になってしまっているので、会話が成立していないですね。
まとめ
待ち合わせの約束をする場合のそれぞれの表現についてまとめておきました。
表現 | 場の中心 | 表していること |
---|---|---|
I’ll be there. | 待ち合わせの場所 | 待ち合わせの場所に意識を置いた上で「そこにいる(存在)」 |
I’ll go there. | 自宅 | 自宅から離れる動き(向かう先は待ち合わせの場所) |
表現 | 表していること | どういうときに使うか |
---|---|---|
行きます | ウチからソトへの動き+到着 | 待ち合わせ場所がソトの場合に使う |
います | 元々、その場にいる(存在) | 待ち合わせ場所がウチの場合に使う |
イベントなどへのお誘いに対する「行きます」は、ウチ=未参加側、ソト=参加側として、未参加側から参加側に移動すること(=参加すること)を意味します。
おまけ:待ち合わせの約束やイベントに誘うときに使われる「来る」
待ち合わせの約束「学校に来るね」
待ち合わせの約束をするときに、待ち合わせ場所によって表現が変わることを見てきました。
・ソトの場合:「行く」
・移動を伴わないウチの場合:「いる」
実は、移動を伴うウチの場合は「来る」という表現を使うのですが、それについて確認しておきましょう。
(学校の教室での会話) | |
A | 明日は10時に学校に集合でいい? |
B | 了解。10時に学校に来るね。 |
ここで「来る」という表現が使われている理由は、待ち合わせ場所である学校をウチとみなしているためです。
この「学校」のように自分と相手の共通のウチがある場合、それを基準にした物言いをしたほうが違和感のない表現になります。
これについては、さきほどの会話の「来る」を「行く」に変えてみるとわかりやすいと思います。
(学校の教室での会話) | |
A | 明日は10時に学校に集合でいい? |
B | 了解。10時に学校に行くね。 |
「行く」を使った表現が間違いというわけではありませんが、「行く」という表現を使うことは「学校」をソトに設定していると伝えているようなものです。
一般的に、ウチとソトの区別は、「普段いるような場所・居心地のよい場所」をウチとして、「普段はいない場所・居心地が悪い場所」をソトに設定しやすい傾向があります。
そういう観点から見ても、学校の教室での会話であるにもかかわらず、いまいる場所をソト扱いするのは違和感を与えてしまう可能性が高いと思います。
イベントに誘う「来ますか?」
本編では「行く」という移動を表す表現が、「参加」という意味を表すことができることを見てきました。これと同じく「来る」も「参加」の意味を表すことができます。
A | 明日、新入社員の歓迎会を行う予定ですが、B さんも来ますか? |
B | 行きます! |
この場合は、イベントに誘っている A さんにとってのウチ=参加側、ソト=未参加側となり、「B さんも来ますか?」で未参加側から参加側に移動すること(=参加すること)を意味しています。
日本語の往来は、ウチとソトの概念と組み合わさることで単純な移動に留まらない「参加」のような意味をもつことができます。改めて言葉って面白いですね。
【お知らせ】
本記事には断定的に述べているところもありますが、検証はしきれていません。もし反証となるような表現や事象などを見つけられましたら、コメント欄にてご一報くださると嬉しいです。
コメント