これまで過去分詞は「完了状態」を表していると述べ、次のように受け身と完了を使いわけることを説明してきました。
- 主語が完了状態である(be動詞+過去分詞)⇒受け身(受動態)
- 主語が完了状態を持っている(have+過去分詞)⇒完了(現在完了形)
しかし、これだけでは「be動詞+過去分詞⇒受け身なのだから、やっぱり過去分詞は『~される』ではないのか?」という疑問が出てくると思いますので、この記事ではより詳しく解説したいと思います。
これまでの英文法
そもそもみなさんから「過去分詞は『~される』ではないのか?」という疑問が出てくるのは、ある意味当然のことなのです。なぜならば、日本の参考書では「受け身(受動態)」について次のように書かれているからです。
日本語では、「れる/られる」を使って<受け身>を表現することができる。それに対して英語では、主語の後に<be動詞+過去分詞>を置くことによって、受動態を作ることができる(実は過去分詞自体に「~される」という意味が含まれている)。
『Forest 6th edition』 P.144より
動詞過去分詞形のイメージは「~される」。…中略…
過去分詞による修飾で最も重要なのは、be動詞と共に使われる「受動文(~される)」です。『一億人の英文法』 P.476より
これまでの英文法の問題点
1) 過去分詞を見たら何でも「~される」と訳すようになる
I‘m done.
We‘re closed.
これらの文を「私はされた」、「私たちは閉められた」と訳してしまった人は多いのではないでしょうか。実際は「できた(=私はやり終えた)」、「閉店中(=私たちのお店は閉まっています)」という意味でよく使われる文なのです。
このような done や closed はこれまでの英文法のルールから外れているため、例外として覚えていくことになります。そして、これまでの英文法の枠組みだと、そのような例外がたくさん出てくるのです。
2) 現在完了形の過去分詞が何なのかわからなくなる
現在完了形(have+過去分詞)の過去分詞が「~される」ではないことに異論はないと思いますが、それでは現在完了形の過去分詞は一体何なのでしょうか?
これまでの英文法は現在完了形の過去分詞について解説することを避けてきました。have+過去分詞というパッケージでまとめて、その意味は四用法(経験、完了、結果、継続)に当てはめて理解させるようにしてきたのです。
このようなやり方は例外をたくさん生み出し、英語を英語のまま理解する妨げになります。スムーズに英会話ができるようになるためには、もっとシンプルに理解できるようにする必要があるのです。
過去分詞のコアイメージ
それでは過去分詞をシンプルに捉えてみましょう。これまで本サイトでは、過去分詞は「完了状態」を表すと述べてきましたが、正確には「過去の行為による完了状態」がコアイメージとなります。
ポイントは過去の行為という過程と、その結果としての完了状態を含んでいることです。この過程と結果のニュアンスがどのように英文に反映されるのか、例文で確認していきましょう。
例文解説
過去分詞は過去分詞でしかない
She is called “Beth.” 彼女はBethと呼ばれています。
be動詞のコアイメージは「存在・状態」です。She is で「彼女が何らかの状態である」と述べ、called で「(その状態が)過去に(Bethと)呼ばれてきて、結果として今(Bethと)呼ばれている状態」だと述べているわけです。
I’ve heard that you live on your own. 君は一人暮らしをしているんだって聞いたよ。
haveのコアイメージは「もっている」です。「過去に(that以下のこと)を聞いて、結果として今(that以下のこと)を聞いた状態」をもっているということです。
この2つの例文からわかることは、過去分詞は過去分詞でしかないということです。受け身のニュアンスはbe動詞の役割によるもので、完了のニュアンスはhaveの役割によるものだったのです。
これに対して、haveは「主語」が何かをもっていることを表すため、主語の位置は過去分詞の「過去の行為」を所有する位置に来るわけです。主語が過去分詞の「過去の行為」をもつ⇒主語は主語自身が過去に行ったことをもつ、となります。
「過去の行為」と「完了状態」ーよりコアに近いのは…
I’m done! できた!
ここでは過去分詞 done の「過程」は鳴りを潜めて、「結果」のみが取り上げられています。ここから、過去分詞のコアイメージのなかでも「過程(過去の行為)」より「結果(完了状態)」のほうがコアに近いことがわかります。
例外としてわける必要はない
He got injured. 彼は傷を負った。
getには「~に至る、~の状態になる」の意味があります。ある意味、be動詞(存在・状態)に変化や過程が加わった単語とも言え、インフォーマル(形式張らない、日常使い)な場面ではbe動詞の代わりによく使われています。
参考書では、「get+過去分詞」を受け身構文の一種として紹介されていますが、これもイメージができれば暗記する必要はなくなります。getに含まれているbe動詞的な働きによって、受け身のニュアンスが発生しているだけだったのです。
海外の参考書での受け身の解説
ここまで日本の参考書の記述を見てきました。それでは海外の参考書で、どのように「受け身(passive)」が解説されているのかを確認しておきましょう。
▶ 述部で受け身を表すときは「be動詞+過去分詞」のパターンを含めます。例:is used / was wanted / can be seen
▶ 受け身は「会話」で使われることはほとんどありません。しかし、「学術論文」では一般的に使われます。▶ The passive form of the verb phrase contains this pattern: be + past participle, e.g. is used / was wanted / can be seen
▶ The passive is rare in [speech], but common in academic [writing].『An A-Z of English Grammar & Usage』 P.362 より 翻訳遠藤
海外の参考書では過去分詞自体に「~される」の意味があるとは述べていません。つまり、日本の参考書のほうが踏み込んだ表現になっていたわけです。そして、それが踏み込み過ぎで誤った解説になってしまっていたのです。
なお、海外の参考書でもbe動詞+過去分詞⇒受け身としか書かれておらず、過去分詞が何なのかは説明されていませんでした。海外でも「受け身」と「完了形」をまたがって使われる過去分詞のコアイメージは解説されていないようです。
【補足】英語における会話で受け身がまれな理由
受け身は「会話」でほとんど使われないという件について補足しておきます。
まず日本語では受け身は頻繁に出てきます。「昨日、先生が私を怒った」よりも「昨日、先生に怒られた」のほうが自然だと感じる方は多いと思います。これと同じ状況を英語で表現すると “The teacher got angry with me yesterday.” と能動態で表現するのが一般的になります。
このように日本語では受け身が多くなり、英語では能動態が多くなる理由は、日本語と英語における「モノの見方」の違いだと私は考えています。この「モノの見方」については、弊著「英会話イメージトレース体得法」で取り扱っているので、ご興味ありましたらご覧ください。
【補足】英語における論文で受け身が一般的な理由
受け身は「学術論文」で一般的に使われるという件についても補足しておきます。
これは「受け身」だから使われているわけではなく、過去分詞のコアである「(動かしようのない)結果」というニュアンスが、アカデミックな研究論文と相性が良いということだと考えられます。
【update】過去分詞の詳しい解説記事
本記事を含む過去分詞のこれまでの考察を一つの記事にまとめました。
基本動詞のコアイメージについて
be動詞、get、haveなどのコアイメージについては書籍『英会話の基礎力アップテキスト』に記載しています。
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