不定詞の不定とは何を意味しているのか、よくわからないですよね。この記事では、不定詞とは何者なのかを述べ、それから不定とはどういう状態を指しているのかを解説します。また述語動詞との対比についてもイラストを交えて記載しています。
不定詞の不定とは
不定詞について
英語では to不定詞 は to-infinitive と呼びます。この infinitive、実は単体だと「動詞の原形」を意味します。
つまり、「不定詞」とは「動詞の原形」のことであり、「to不定詞」とは「to + 動詞の原形」のことなのです。
不定とは
さて、ご質問の「不定」とは何が定まっていないのか、についてお答えしていきましょう。
結論から述べると、不定詞の「不定」とは「述語動詞として使える語形に定まっていないこと」を表しています。
述語動詞とは文型として習う SVO などの V の部分のことです。
つまり、不定詞とは「述語動詞として使えない語形の動詞」を表す用語だったのです。
ここまでわかると、頂戴した質問の問題点が浮かび上がってきます。実は設問自体がミスリードを招くものになってしまっているのです。
具体的には、不定とは【何が】定まっていないのか?という設問を立ててしまうと「不定って【語形が】きちんと定まっていないってことなのかな?でも語形はきちんと定まってるよね?」と堂々巡りになってしまうのです。
重要なのは、何がではなく【何に】定まっていないのか?です。語形が【述語動詞として使える語形に】定まっていない、これが不定の表すところなのです。
述語動詞 vs 不定詞
述語動詞として使えることが重要
ご質問に対する回答は以上になりますが、ここまでの説明で次のような質問をよく受けるので合わせて説明します。
ご質問への答えですが、それは YES(=述語動詞として使える語形になっていることは重要)です。そして、この認識が不定詞 infinitive をつかむために必要不可欠なものなのです。
そもそも infinitive はラテン語の文法用語に由来しています。ざっくり説明すると、ラテン語では主語の種類に応じて、述語動詞はすべて異なる語形になっていました。
…と言われても、ピンとこないですよね。そこで、喩え話でラテン語における主語と述語動詞の関係を説明したいと思います。
主語と述語動詞の関係
まず主語が「家の主人」で、動詞が「鞄持ちの付き人」だと思ってください。
ラテン語の世界では当初、付き人が主人と一緒に外出するときには、必ずどこの家の者なのかがわかるような制服を着なければいけないというルールがありました。
時が経つにつれて、付き人は主人と一緒にいなくても着ている制服だけで、どの家の付き人なのかわかるようになり、付き人だけで主人の代役もこなせるようになりました。
さて、付き人はだいぶ自由に振る舞えるようになってきましたが、それでも制限はまだありました。
それは外で実際に鞄持ちの仕事をするのであれば、必ずその家の制服を着ていなければいけないというものです。付き人が裸で外で鞄持ちをすることは禁じられていたのです。
infinitive という単語に話を戻すと、外で制服を着た付き人たちが述語動詞(finite verb)であり、裸のため外で仕事ができない状態の付き人を不定詞(infinitive)と呼んでいたわけです。
※finite は「限定された、制限された」という意味。infinite は finite の反意語で「限定されていない、制限されていない」という意味になります。infinitive は「infinite 的な」というイメージで、文法用語として「infinite 的なモノ」(形容詞ではなく名詞扱い)になります。
述語動詞として使える状態が基準
このようにラテン語ひいては英語では「外で仕事をする」ことを基準にみて、そこから「外で仕事ができない状態」として「不定」を規定しています。
不定詞とは、そのような見方に基づいた文法用語だというわけです。
しかし、これは英語を第二言語として学ぶ私たち日本人にとってはわかりにくいものです。
なぜならば、私たちは英文法から英語に触れることが多いため、私たちが出会う動詞(付き人)は、述語動詞として使える語形(着衣済み)であるよりも、辞書の見出し語のような語形(裸)であることが多いからです。
実際に、私たちにとっては「不定詞」よりも「動詞の原形」という用語のほうがよほどしっくりきますよね。
そのため、私は無理に不定詞という用語を使わなくてもよいと思っています。すべて動詞の原形に置き換えてしまえばよいのです。to不定詞は「to + 動詞の原形」と置き換えればよいのです。
参考資料
以上で、ご質問への回答はおしまいですが、参考までに「ラテン語における人称ごとの述語動詞の形」と「不定詞は英語圏でどのように説明されているか」を挙げておきます。
ラテン語における人称ごとの述語動詞の形
ラテン語で「愛する」という意味の動詞 amo は、人称ごとに次のような変化形で表されます。喩え話で説明したように動詞の形だけで主語がわかるため、一般に主語は省略されます。
ラテン語 | 英語 |
---|---|
amo | I love |
amas | you love |
amat | it/he/she loves |
amamus | we love |
amatis | you all love |
amant | they love |
出典 ラテン語の文法入門。初心者向け – trivialworldのblog
不定詞は英語でどう説明されているか
英語版の wikipedia で infinitive がどう説明されているか、該当箇所を翻訳しておきます。
伝統的な英語の記述において、the infinitive は動詞の基本形(辞書の見出し語)です。to を伴ったり伴わなかったりしながら、(人称や時制に)制約されずに使われます。 ※翻訳は著者によるもの
まとめ
不定詞の「不定」とは、語形が「述語動詞として使える語形に定まっていない」ことです。
冒頭の画像の答えですが、裸の状態の方が不定詞のイメージということになります。ぜひみなさんもこんなイメージで不定詞 infinitive を捉えてみてくださいね。
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コメント
to不定詞の不定の意味が”述語動詞として使える語形に定まっていない”という一言でとてもよく理解できました。また家の主人とかばん持ちの例えはとてもよかったです。でも書いてある通り、我々日本人にとっては不定詞というより動詞の原形といった方が分かり安いですね。
最初に出てくるイラストが面白すぎます。
が、全裸の方であっていたんですね。
内容としては文法の歴史的な成り立ちの解説がメインだったように思います。不定詞=動詞の原形とざっくり覚えておくのは間違いないようなので安心しました。
日本の学校で学習する英語、特に文法においては、それだけでは何を意味しているのか曖昧な用語が出てくるものです。英語の不定詞の不定とは何なのか、と問われても、よくわからないままで放置していた私にとり、今回の解説記事は、ラテン語の文法にまで視野を広げて解説しているところがとても斬新に感じました。
to 不定詞は理解するのが本当に難しいと改めて読んでみて感じました。しかし最後には、無理に不定詞という用語を使わなくてもよくて、to 不定詞は「to + 動詞の原形」と置き換えればよいという捉え方を提示してくれたので、今後はそう覚えていこうと思いました。
不定詞とは「述語動詞として使えない語形の動詞」を表す用語という説明でなんとなく意味は分かりましたが、最後に書かれていた不定詞という用語をすべて動詞の原形に置き換えてしまえばよいという解説でよく理解できました。
普段TO不定詞が云々といいつつも、そもそもなぜ不定詞と呼ばれるか全く意識していなかったので、大変勉強になりました。述語動詞として使える語形に定まっていないという説明にとてもしっくりときました。これを頭に入れて今後も不定詞を活用していきたいと思いました。
ラテン語の主語とと述語動詞との関係あたりからたとえ話を用いて解説している部分が、逆に理解するのに難しく感じられました。ラテン語に馴染みがないからなのかもしれませんが、別の方法での説明があると、より理解できるのではないかと思いました。
ただ、不定詞の不定については、最初のほうの解説でよく理解でました。
丁寧な解説をされて素晴らしいと思いました。不定の意味を詳しく解説されていますが、コミカルかつユニークな表現をされていて見ていて、くすっと笑えました。面白い上に分かりやすい解説なので、不定詞について楽しく学習することができました。
この記事には「何がではなく【何に】定まっていないのか?です。語形が【述語動詞として使える語形に】定まっていない、これが不定の表すところなのです。」と書いてあり、大変参考になりました。英語の例題がもう少しあると、より勉強になるかなとも思いました。
例えがとても良いです。難しい内容ですが、この絵を見るとすぐに不定詞のイメージが理解できるような内容になっていて、最初から興味を持てるような流れになっていました。
私は文法から習う英語が嫌いで学生時代は英語が苦手でしたが、そんな私でもとてもわかりやすい内容だと感じたので、不定詞について理解を深めたい人には、ぜひこのような記事を読んでもらいたいですね。
infinitive の語源を調べようとググっただけなのですが、記事が面白くてついつい引き込まれてしまいました。思いがけず「そうだったのかー‼︎」と不定詞の理解が根本のところで深まりました。ありがとうございました。
いつもご覧いただき、ありがとうございます!このようにコメントを頂けると頑張った甲斐があります!こちらこそありがとうございます。